オープンレター大事件の経緯・論点

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オープンレター 女性差別的な文化を脱するために」という署名運動が、にわかに注目を集めている。このオープンレター(公開状)が出され、注目を集めるに至った経緯は、やや複雑だ。

事の発端は、「応仁の乱」などの著書で有名な歴史学者の呉座勇一氏が、自身の非公開のTwitterアカウント(いわゆる鍵垢)で、武蔵大学准教授の北村紗衣氏に対する悪口・陰口(誹謗中傷とも呼ばれる)を繰り返していたことだ。このことが2021年3月に発覚すると、呉座氏は瞬く間に炎上してしまった。また、北村氏個人への陰口や揶揄だけではなく、呉座氏が反フェミニズム的な言説に肯定的であったことも、呉座氏への非難が加熱する一因となった。
この一件により、呉座氏は大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の考証から降板することとなり、2021年9月には勤務先の国際日本文化研究センター(以下、日文研)から停職1ヶ月の処分を受けた。なお、呉座氏は北村氏に対して謝罪し、2021年7月には和解が成立済みだ。

こうして、全てを失ったかに見えた呉座氏だったが、事態は2021年10月に再び動き始めた。呉座氏は、停職のみならず准教授への昇進を取り消される処分も重ねて受けており、この処分は不当に重いとして日文研への訴訟を起こしたのだ
この訴訟をきっかけに再び注目を集めたのが、冒頭で述べたオープンレター である。このオープンレター は、『私たちは、研究・教育・言論・メディアにかかわる者として、同じ営みにかかわるすべての人に向け、中傷や差別的言動を生み出す文化から距離を取ることを呼びかけます。(オープンレター本文より引用、強調は狼山)』という名目で2021年4月に公開されたものだが、本文中において呉座氏の名前は10回以上出されており、呉座氏の言動が「中傷や差別的言動を生み出す文化」の代表的な例として挙げられている。また、オープンレターの呼びかけ人は複数人だが、その中には北村氏にも含まれている。
したがって、このオープンレターは、一般論として「中傷や差別的言動を生み出す文化」に反対するのみならず、呉座氏個人を名指しで糾弾する意図・効果があったと見做されても仕方ないだろう。オープンレターの署名者は、1000名を超えており、その中にはアカデミアやメディアの関係者が数多く含まれている。普通の署名運動のように署名者の数を出すのみならず、社会的地位の高い数多くの人々の名前と肩書を列挙したのが、このオープンレターである。

オープンレターが再び注目を集める中で批判的に論じられたのは、主に以下の3点である。
一つ目は、このオープンレターが、日文研による呉座氏への過大な処分の一因なのではないかということである。先述した停職処分と昇進(助教→准教授)取り消しの他にも、呉座氏は日文研から厳重注意を受けている。すなわち、Twitter上の発言のみを理由として、呉座氏には三つの処分を受けたのである。こうした過大な処分が明らかになるにつれ、1000名を超える研究者やメディア関係者が署名したオープンレターが、呉座氏への処分に影響を与えたのではないかという指摘が強まった。
二つ目は、オープンレターの杜撰な運営体制である。2022年1月文筆家の古谷経衡氏が、自身の名前が無断でオープンレターに掲載されたとして削除を求めたことがきっかけとなり、オープンレターの運営・管理体制の杜撰さが明らかとなった。その後、古谷氏の他にも、名前を勝手に使用されたケースが見つかった。また、オープンレターが呉座氏の過大な処分の一因になったことや、オープンレターの運営者たちの稚拙な対応などが引き金となり、オープンレターの署名を撤回する人も出てきた。
三つ目は、オープンレターの話題が広がっている最中の、北村氏(と北村氏の弁護士)の行動である。呉座氏は2022年1月に、とあるインターネット番組に出演したが、その直前に北村氏の弁護士から、北村氏について言及しないように書面を通じて要求された。呉座氏は、要求には従った上で、この書面を自身のブログに公開したのだが、今度は弁護士を通じてブログの削除が要請される事態となった。北村氏の弁護士は、他にもオープンレターの批判者に対して同様の要求を行なっており、このことは他の弁護士からも法的な正当性を疑問視されている。

以上が、オープンレターに関する経緯と論点である。
呉座氏の裁判の行方やオープンレターの署名偽造問題など、私としても気になることは多い。しばらくは目が離せない問題だ。