真剣勝負は真剣になる方が負ける!?  フリースタイルティーチャーを高校生ラップ選手権から読み解く

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フリースタイルティーチャーという番組がある。これはラップバトルを一大コンテンツにしたフリースタイルダンジョンというラップバトル番組の後継番組で、フリースタイルダンジョンで活躍した人気ラッパーたちが芸人にラップバトルを指導し戦わせるという番組だ。

参加する芸人は、霜降り明星のせいやゆりやんレトリィバァとろサーモン久米田、などの有名どころから若手の無名芸人まで広く揃えていて、番組上の都合からか「売れっ子芸人 VS 無名芸人」の構造になりやすい。対戦カードの組み合わせは事前に知らされていて、人気ラッパーであるティーチャーの指導を通した何日間の練習の後に本番のステージで戦う。

このフリースタイルティーチャーを見ていて思うことは、やはり売れる芸人は売れるだけの理由がある、という身も蓋もない感想だ。というのも、この番組は真剣勝負の体を取ってはいるが、勝ち負けというのはあくまでオマケでしかない。そもそも本当に芸人で真剣勝負がしたければ、M-1やR-1やキングオブコントなどの賞レースがあるし、ラップバトルを真剣にやるならば、全国各地で予選を広げて日本一を決めるUMBULTIMATE MC BATTLE)などの大会に出ればいい。フリースタイルティーチャーはあくまでバラエティ番組なので、番組の中で自分の色をどれだけアピール出来るかが、裏にある本当のテーマなのである。

フリースタイルティーチャーを見ていると、売れっ子芸人の語彙の多さに驚かされる。彼らは、ラップバトルの醍醐味でもあるをそれほど踏まない代わりに、自分の芸人としての特色をアピールすることに得意で、独自の表現でラップに笑わせるポイントを作ってくれる。それに比べると、若手の芸人は、ラップスキルという点では上回っていて、韻をたくさん踏んだり、フロウ(リズムのようなもの)をつけたり、闘争心を剥き出しにしたりと、ラップバトルという場の中では優秀なラップを披露する。

しかし、自分の芸人の色をアピールするという点にはおいては、売れっ子芸人に劣る。視聴者が売れっ子芸人の持つ特色を知っているのに比べて、若手芸人への知識は殆ど未知である。ラップバトルは”8小節2ターン”で、自分のラップを披露する場というのはたったの2回しかないのである。8小節2ターンを分かりやすく例えるとしたら、ツイッターのツイート140文字の制限のようなものだ。140文字の中で自分の持ってる特色をアピールしなければならない。若手芸人は、プロフィールが知れた売れっ子芸人に比べて、遥かに不利な状況にある。
凡庸な韻をたくさん踏んだり、勝つ覚悟みたいなものを表明をしていると、あっという間に140文字が埋まってしまう。
つまりは、ラップバトルで勝つことに拘ると勝てないというジレンマに陥る。

このジレンマは、前任番組のフリースタイルダンジョンを作るに至った経緯である、ラップバトルブームの火付け役となった高校生ラップ選手権を思い出す。名の通り高校生がラップバトルをする番組で、オーディションを勝ち抜いた高校生ラッパー達がトーナメント形式で争い優勝者を決める人気番組である。高校生ラップ選手権もフリースタイルティーチャーと同じ”8小節2ターン”形式を採用していて、更にシビアなのが、フリースタイルティーチャーは最大3試合して2勝取ったほうが勝ちが決まるのに対して、高校生ラップは1回勝負で終わってしまう。(勝敗がつけにくい場合には延長戦もある)

高校生ラップ選手権が開催しても間もない頃は、規模も小さく、その場で考えた即興の辿々しい高校生らしいラップを披露することも多かった。開催を重ねる毎にラップのスキルもあがっていくが、出場者も”あること”に気付き出す。あまりにも自分のラップをする時間が短すぎるのである。この事に気付いた高校生達は、この有名になるチャンスの場で最大限のパフォーマンスを出すたびに、家で考えてきたであろう韻のネタを披露していくスタイルに変わる。即興でその場で考えるよりも、家で考えてきた長い韻のほうがラップバトルでは遥かに有効だ。

フリースタイルティーチャーの若手芸人ラッパー達は、殆どがこの段階である。相手に何を言われようが、汎用性の高い韻を家で考えてこればそれなりのラップになる。しかし、これはある意味、ラップバトルという勝負では勝てても、自分の特色を売るという裏のテーマでは全く有効でない。ラップバトルという勝負での勝ちにこだわる故に勝てない。それは高校生ラップの歴史が証明しているのである。

この家で考えてきた長い韻を披露する場であった高校生ラップ選手権は回数を重ねる毎に終わることになる。相手の言った発言から言葉を拾って韻を踏むことで、その場の即興であることとをアピールするMCニガリが登場し、このカラクリはすぐに破られる。頭の回転に長けた彼は高校生ラップ選手権初の2連覇を達成する。この、「家で考えてきた長い韻を踏むことはダサイ」のレッテルをMCニガリによって貼られた高校生ラップ選手権は、次のステージに移行する。そう、いかに自分の色をアピールするか、である。

MCニガリ

今や武道館で開催をする大規模大会となった高校生ラップ選手権。レベルも向上し、高校生ラッパー達にとって長い韻を踏むことは当たり前になる。日々ラップの練習を重ね、憧れの舞台に出場しようと努力する高校生ラップ戦国時代。そんなラップに真剣な高校生達をの中から登場したのがMOGURAである。彼は偏差値の高い進学校の生徒で、ラッパーに似つかわない眼鏡のガリ勉キャラクターで、しかもラップ歴は2ヶ月というキャリアながら、かなり長い韻を踏むことも出来るスキルも持ち合わせていて、ラップ選手権の場で大いに観客を沸かしたのである。彼がやったことというのは、単に家で考えてきた長い韻を踏むことの焼き直しに過ぎないのだが、ガリ勉優等生の眼鏡高校生がヤンチャな高校生ラッパー達を倒すという物語性が面白く、観客や審査員の心を掴んだのである。
つまりは、高校生ラップ選手権というのは、自分の特色をアピールするキャラクターゲームの場になったのである。

MOGURA

フリースタイルティーチャーの売れっ子芸人達が魅力的なのは、このキャラクターゲームに気付いている
からであって、若手芸人達がやってしまう、ラップスキルの披露というのは、MOGURAが2ヶ月でやってみせたように、ラップのうまさを見せかけるだけなら案外誰でも簡単に習得可能なことなのだ。


しかしながら、「勝負に勝たなくてもいい。自分の特色やキャラクターををアピールすることに必死になるべきだ。」と言ってしまい、このキャラクターゲームばかりに気を取られてしまうのも、また問題がある。
ラップバトルの本来の魅力というのは、本気で勝つという情熱や必死さであって、ラップそのものに真剣でなくなるのは本末転倒だ。彼らは売れてるが故に、勝ち負けに拘らないから勝利するが、それは真剣な勝負をしてくれた人間がいる故に成立するのである。