少子化、人口減少は“人類の”未来である

・日本の少子化

日本で少子化が叫ばれて久しいが、合計特殊出生率(女性1人が生涯で産む子供の平均的な人数。以下、出生率)は1.4前後で横ばいの状態が続いている。
無論、その原因は様々だが、主な理由としては非婚化が挙げられることは、少し前の記事でも述べたとおりだ。夫婦1組あたりの子供の人数があまり変わっていない一方で、生涯未婚率が上がっているため、出生率が人口置換水準(2.0〜2.1程度)に達しないのが、1970年代以降の日本の人口動態の特徴である。出生率が人口置換水準を下回ってからも、長寿化の影響で人口増加は続いていたものの、平成20年(2008年)に1億2808万人でピークを迎えてから、減少に転じている。
非婚化に関しては、バブル崩壊や消費税増税によるデフレの影響も指摘されているが、少なくとも私はこれは大きな要因ではないと考えている。何故なら、平成元年の出生率は1.57であり、これ自体は現在と大差ない。この頃は今よりはるかに景気が良かったが、1980年代を通じて少子化は進行していたのである。もちろん、経済環境が良ければ少子化のペースがマシになっていた可能性はあるが、その場合でも現在の人口動態と大きく異なることはなかっただろう。

・少子化は普遍的な現象である

そもそも、出生率が人口置換水準を下回る状況は、日本だけでなく主要先進国のほぼ全てにおいて起きている。家族人類学者のエマニュエル・トッドは、人口学者のユセフ・クルバージュとの共著『文明の接近 「イスラームvs西洋」の虚構』において、近代化が進んだ国や地域では出生率が低下する=少子化が進行することを明らかにした。この本の中でトッドは、近代化の指標として識字化(特に女性の識字率の向上)と脱宗教化(社会における宗教の影響力の低下)を挙げているが、この2つが進行することで少子化も進行していることが、過去の欧州や日本の人口動態から明らかになっている。
また、現在でも欧州と比べて出生率が非常に高いイスラム圏に関しても、過去の水準と比べて出生率は低下しており、いずれ先進国と同じような人口動態になるだろうと、トッドは指摘している。
もちろん、少子化のペースや程度は各国ごとに異なるものの、いわゆる近代化の進行が少子化をもたらすことは普遍的な傾向として明らかだろう。そこで、本稿ではG7諸国、新興国、イスラム圏の出生率を詳細にとりあげ、その将来について簡素な分析を行う。

・G7諸国の少子化

G7とは、主要先進国のグループであり、現時点では日本、アメリカ、イギリス、カナダ、ドイツ、フランス、イタリアによって構成されている。日本の人口や出生率については既に大まかに述べたので、ここでは日本以外の6カ国を取り扱う。
まず、6カ国の1980年から2018年までの出生率の推移を、以下に示す。グラフは、世界経済のネタ帳より引用した。

画像1

大まかな傾向としては、ここに挙げた全ての国の出生率が、近年では人口置換水準を下回っていることが指摘できる。アメリカとフランスは出生率が比較的高く、2.0を超える時期もあったものの、現在ではいずれも1.8前後となっている。一方で、ドイツとイタリアの出生率は低く、長年1.4前後で推移していたが、近年ではドイツの出生率が上昇している。ただし、これはドイツの一般的な家庭が子沢山になったのではなく、移民と難民の増加が主な要因だろう。近年、出生率の高い中東からの移民と難民が増えたため、ドイツの出生数は上昇傾向にある。
今のところ、北米・西欧諸国の人口は漸増傾向にあるが、自然増(出生数が死亡数を上回ることによる増加)とともに社会増(移民や難民)の影響も大きい。出生率が低下しても、寿命の伸びなどの要因で自然増が続く場合もあるが、長期的に見た場合、移民なしで人口を維持することは難しくなるだろう。
また、特定の地域からの移民が大幅に増えた場合、受け入れ国の社会を大きく変化させることも見逃せない点だ。中南米からの移民が多いアメリカでは、スペイン語を話す人口が非常に多くなっており、既にスペイン本国よりもスペイン語を母語とする人は多い。こうした点は、単に人口動態の量的な面だけを見ても分からないことだ。

・新興国の少子化

G7諸国は、おおむね少子化を迎えているが、少子化の波は先進国だけでなく新興国にも及んでいる。そして、近年では人口置換水準付近まで出生率が低下した国も珍しくない。
以下に、アジアの代表的な新興国(インド、中国、フィリピン、ベトナム、インドネシア)の出生率の推移(1980〜2018)を示す。これも、グラフは世界経済のネタ帳から引用した。

画像2

全体的な下落傾向は明らかだが、1979年から一人っ子政策を導入していた中国は特に出生率が低い。中国の人口は2021年に14億人を突破したものの、出生数は急激に減っており、従来の人口政策を転換しようとしている。
とはいえ、中国においても日本と同様に非婚化が進んでいることに加え、これから先に結婚適齢期を迎える世代は、一人っ子政策が導入されてから生まれた世代であるから、そもそも人口が比較的少ない。したがって、人口政策を急に転換しても、即効性は薄いだろう。
私としては、新興国の中でもインドの人口動態に特に注目している。インドの出生率は40年前の半分以下に下がっているが、まだ人口置換水準を上回っており、近い将来には総人口で中国を追い抜くと予測されている。世界一の人口大国となった後のインドがどのような変化を遂げるのかは、他の新興国の将来を予測する上でも、注目に値するだろう。

・イスラム圏の少子化

東アジア、北米、西欧に比べて、イスラム圏では今もなお出生率が高い。とはいえ、イスラム圏においても、トッドが指摘するように識字化と脱宗教化が進みつつあり、これに伴って少子化も進んでいる。以下に、世界経済のネタ帳から引用した主なイスラム教国(サウジアラビア、イラン、イラク、パキスタン、トルコ)の出生率の推移(1980〜2018)を示そう。

画像3

新興国の出生率と同様に、こちらのグラフからも長期的な下落傾向が見て取れる。特にイランとトルコの出生率は、近年では2前後で推移しており、先進国に近い水準まで下がっている。サウジアラビアも、近年では両国に近い水準となっている。イラクとパキスタンはまだ出生率が高いものの、長期的には下がっており、1980年には出生率が6を超えていたことを鑑みれば、変化は一目瞭然である。
イスラム圏の国々からヨーロッパへの移民は、一般的なヨーロッパ人と比べてはるかに出生率が高いため、一部ではヨーロッパの「イスラム化」が予想されることもあるが、それはあくまで中短期的な話だろう。かつてキリスト教圏のヨーロッパ諸国が世俗化(脱宗教化)や少子化を経験したように、イスラム圏でもそれらは起こっており、イスラム教徒だけが永久に高出生率を保つという想定は、現実的ではない。
無論、アメリカのアーミッシュのような宗教保守派のコミュニティは、高い出生率を保つ傾向にあるが、それは個々の宗教の特性によるものというより、伝統的な共同体を維持することによるものだ。これは、他の宗教においても同様だろう。世俗化しない保守的な地域やコミュニティは高い出生率を維持するかもしれないが、一般的には世俗化が進むほど出生率は下がる傾向にある。

・結論

以上のように、日本、G7諸国、新興国、イスラム圏などの出生率とその推移を見ると、いずれも程度の差はあれど少子化が進行していると分かる。
アジアやヨーロッパの人口が減少する頃でも、アフリカはまだ人口増加を続けていると予測されているが、識字化や世俗化が進んだ後は、他の地域と同様に少子化も進むだろう。そもそも、現時点でもアフリカの中で比較的発展している国(ケニアや南アフリカなど)は出生率が低下している。
アフリカの少子化を経て、人類全体が人口減少へと至った時、人口増加を促し、また人口増加に支えられてきた近代乃至は現代(modern)という時代は一つの節目を迎えるだろう。
それは人類没落の序曲となるかもしれない一方で、長期的には人類の存続を有利にするかもしれない。頭数が減ること自体は、種族の存続にとって直接的にはマイナスだが、増えた人口をいかにして養うか(資源を確保するか)という問題は避けられない以上、安易に増えればいいというものでもない。戦前の日本が資源と植民地を求めたのも、増え続ける人口を養うことが一つの大きな動機だった。
100年後の人類は宇宙に進出するかもしれないし、人口減少を受け入れて地球の資源だけで満足するかもしれない。いずれにせよ、現時点で生きている我々が、そうした選択をする立場にないことは確かだろう。
我々に分かるのは、超長期的には人類の人口増加が止まることだけであり、その上でいかなる文明を作り上げるのかは、我々の子孫が選択することだ。