【ロルフの書評】新装完全版 大国政治の悲劇:ジョン・J・ミアシャイマー著

この本を読むのには勇気が要る。その理由は主に2つある。
まず、あまりにも分厚いため、読むのが億劫になるからだ。
次に、書かれている内容が戦後日本人の常識とはあまりにも乖離しているからだ。この2点を了承した人でなければ、本書を読み進めるのは多大な苦痛を伴う。
だが、これらの難関をクリアすれば、読者にとって得るものは非常に大きいだろう。

本書では、国際政治学者のジョン・J・ミアシャイマーが、持論であるオフェンシヴ・リアリズム(Offensive realism:攻撃的現実主義)に基づいて、ナポレオン戦争から米ソ冷戦までの歴史を分析し、最終章では現代中国の台頭にも触れている。
ちなみに、「攻撃的現実主義」と聞くと、なんとも物騒なイデオロギーに聞こえるが、これは「国家は攻撃的(拡張的)な対外政策を採る傾向が強い」と説明する理論であって、攻撃的な対外政策を推奨しているわけではない。

ミアシャイマーの理論そのものは、案外シンプルだ。彼の主張を要約すれば、「国際社会では独立国家より上位の権力が存在しないため、国家が自身の生存を確保するためには、地域覇権(Regional hegemony)を手にすることが最も合理的である」といった内容だ。
そして、実際に地域覇権を狙った国として、アメリカ、ドイツ帝国、ナチスドイツ、ソ連、大日本帝国が挙げられている。
ただ、史実を見ても分かる通り、地域覇権確立の試みを成功させたのはアメリカだけだ。ミアシャイマーは、なぜアメリカだけが覇権国家になりえたのかを説明しつつ、他の4ヶ国についても詳細な分析を行なっている。当然、その中には日本も含まれているため、私はそこに一番注目した。

ミアシャイマーは、日本の戦争の動機が東アジアの支配(すなわち地域覇権)であることを指摘しつつも、それが国際関係の中で合理的に行動した結果だとも述べている。この見方は、党派性を問わず多くの日本国民にとって受け入れにくい主張かもしれない。
日本の戦争は無謀かつ強欲な侵略戦争だったのか、あるいはアジア解放の為の聖戦だったのか、という議論は何度も繰り返されてきた。しかし、「合理的・必然的な侵略戦争」という見方は、どちらの立場とも異なる。そのため、我々の一般的な認識とは齟齬が大きいのだ。
これは、戦後の論壇では「先の大戦は道義的に正しかったか否か」という点ばかりが注目されてきた弊害でもあるだろう。当人(日本)にとっての合理性や必然性は、他者(アジア諸国)から見ても同様だとは限らない。

もちろん、個々の戦争犯罪と向き合い、記憶していく作業は絶対に必要だ。しかし、戦争という大きな事象を紐解く上では、善悪の問題とは別に徹底的なリアリズムで情勢を振り返ることも必要となるだろう。
そうした点で、「大国政治の悲劇」は、近現代史における巨大な悲劇を見つめおなす上で必読の一冊だと言える。

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