中野剛志にハマるのはなぜヤバいか?

予め断っておくと、私は中野剛志氏(以下、中野)が嫌いなわけではないし、むしろ尊敬している。
彼の著作は7冊ほど読んでるし、それらは今でも私に大きな影響を与えている。そうした経緯を踏まえれば、私はかなり熱心な中野ファンだと言える。
ただ、彼の姿勢や手法に関して不満がないわけではないし、彼の信者たちにも色々と思うところはある。
私が中野に関して問題だと思うのは、
①中野の著作を熱心に読めば読むほど、読者は成長を阻害されること
②コロナ問題に対する中野の立場
の2点である。以下、これらを3つのパートに分けて説明しよう。

まず、これは仕方ないことでもあるのだが、中野が主張していることの本質を、多くの読者は掴みきれていないように思える。
例えば、中野の著書のうち最も重厚かつ質が高いものは「富国と強兵 地政経済学序説」だろう。しかし、知名度は「奇跡の経済教室」の方が圧倒的に高い。後者が有名になったこと自体は悪くないし、内容も非常に分かりやすいのだが、前者に比べれば伝えられる内容は必然的に狭まる。
すなわち、保守思想、プラグマティズム、ナショナリズムといった思想的な要素はあまり伝わらず、もっぱらMMTなどの経済理論ばかりが有名になってしまうのだ。
こうなってしまえば、思想と理論を巧みに融合させた中野らしい評論は、真の意味では評価されない。むしろ、反緊縮版池上彰のような扱いにならざるを得ない。
もちろん、中野の真価はその程度にとどまらない。だが、彼の著書のうち分かりやすいものばかりを選り好みする読者が増えれば、ナショナリストや保守派といった面よりも、経済評論家という面ばかりが強調されることになるだろう。というか、既にそうなってる。
これは、中野本人よりも読者側の問題である。中野が書いた本はどれも素晴らしいため、かえって読者の偏食を促してしまうのだ。

また、読者の選り好みだけでなく、中野自身が「最強の論客」すぎるのも、本質的には問題だ。はっきり言って、彼の知性は広範すぎるし強靭すぎる。
「富国と強兵」や「奇跡の経済教室」のほかに、日本思想史に関する本も書いているし、経営学だって扱っている。彼一人の本を何冊か読むだけでも、様々な分野の知識と論理を得られる。中野と比較してしまえば、世間の知識人の大半を、知識人とは呼びたくなくなる。
要するに、中野は無双しすぎているのだ。そこらへんのラノベの主人公より、中野の方がよっぽど強い。彼の本を読めば、彼の凄さは伝わってくるし、世の中にはしょうもない知識人モドキが大量に生息していることも分かる。
しかし、強すぎる中野の存在が、読者の視野を狭め、多様な知に触れる機会を、減らしてしまう可能性もあるだろう。なにしろ、中野の本を読むだけでも知的好奇心をかなり満たせるのだから。しかし、中野は知っていることや考えていることを、全て本に書けるわけではない。
そのため、中野の本だけで勉強していては、いつまでも中野の劣化コピー(劣化という言葉すら生温い)から抜け出せない。
これは、ネット上で中野信者を眺めて抱いた感想であり、他ならぬ私が陥りそうになった状況でもある。中野の凄さに感服するあまり、このままでは視野が狭くなると感じた私は、ある時期から彼の著書を意図的に避けるようになった。
分かりやすさを求める読者と、あまりにも強すぎる中野剛志。この2つが組み合わされば、読者側の偏食はひたすら悪化するだろう。

もう1つ述べておきたいのは、最近の中野に感じる疑問である。新型コロナウイルスが流行して以後、中野は徹底自粛派としての立場を表明している。彼が言うような、「財政出動で経済被害を抑えつつ自粛を徹底させて感染拡大を抑える」というモデルは、正論のようにも聞こえる。
しかしながら、このモデルの欠点には想像力が及ばなかったようだ。感染防止のためには、経済活動だけでなく、より広範な社会活動を止める必要がある。そして、こうした活動は、人間が人間らしく生きていく上で必要不可欠な以上、それを止めれば様々な形で実害が噴出する。
したがって、コロナ感染を防げても、その他の面での健康は大いに害されるだろう。大学生は対面授業やサークル活動が大きく制限されているし、自粛ムードは高齢者の健康や生活にも悪影響を与えている。
数ヶ月前に、中野は適菜収・佐藤健志両氏と共に、自粛緩和を主張する藤井聡氏を執拗に批判したが、経済被害を防ぐために補償しろという正論を繰り返す一方で、補償では解決できない実害への言及は、圧倒的に足りていなかった。保守なら、むしろそういう面を気遣ってもいいはずだ。
私自身もコロナ禍で色々な機会を失ったし、同じような目に遭った人々の無念には、藤井氏の方が真摯に寄り添っていただろう。それなのに、藤井氏が弱者切り捨てを主張していると論難し、自分たちが誰も傷つけていないかのように自信を持って語る様子は、何ら響くものが無かった。この点に関しては、古田氏の動画に頷くしかない。

以上が、私なりに抱いた中野剛志への「違和感」のようなものだ。“中野剛志にハマるのはなぜヤバいか?”というタイトルを掲げて書いたものの、これまで述べた点を十分に理解してもらえれば、中野剛志にハマっても大丈夫だろう。
繰り返し言うが、私自身は中野の主張、思想、論理などには同意する部分が多々ある。しかし、彼の読者や信者には強い不信感を抱いてるし、彼の姿勢や手法には疑問を感じることも珍しくない。私の立場は、こうしたシンプルなものだ。

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